恋愛は,太古の昔から現在に至るまで,人の心を翻弄してやまない永遠のテーマです。我々に,生きる喜びを与えたかと思えば,命を絶つほどの苦悩にもなり得る,“視覚的に”示しようのない得体の知れないものです。それでも,あるいはそれだからこそ人々は,文学や絵画・音楽・舞踏・映画などのさまざまな分野において,この恋愛という答えのないテーマを表現し,追い求め続けています。
 自閉症スペクトラム障害のある人たちは,知的発達の程度によらず,社会性,コミュニケーション,そして想像力に課題があります。その上,感覚の過敏さ鈍さもよくみられます。人よりもモノに興味関心がある,一人を好む,対人ストレスに弱い,という社会性の障害があれば,自ずと異性との駆け引きである恋愛から遠ざかるのは想像に難くないでしょう。
 コミュニケーションの障害は,ことばの受けとり方に違いをもたらします。あるアスペルガーの女性は,上司の“疲れたから一服していこう”のことばを鵜呑みにしてホテルにチェックイン。あわや,合意なく事に及びそうになった,というエピソードもあります。経験していないこと,見えないモノを想像するのは困難,という想像力の欠如があれば,最初の一歩のきっかけもつかみにくいでしょう。
交際の個別性の強さのため,前の恋人との経験をそのまま次に生かすこともままなりません。
恋愛の必修アイテム-“相手の気持ち”“その場のロマンティツクな雰囲気’’ -についてのコツなど,だれが細かく教授してく
れるでしょうか。いつも何でも教えてくれた親や先生も,こと恋愛やSEXの話題になれば,尻込みするのは目に見えています。デートの最中,体に触れられるのを不快に感じて手を振り払えば,相手は嫌われていると誤解するに違いありません。感覚過敏があると相手に打ち明けることや,そのタイミングについて,知らなかったと嘆きの声が聞こえてきそうです。誰にとっても悩ましい恋愛関係,とりわけアスペルガーの人たちにとっては,二重三重にもその苦悩はふくらんでいきます。しかし,アスペルガーがあろうとなかろうと,自分を理解し,慈しみ,愛してくれる恋人が欲しいという気持ちは,人として自然な欲求です。
 そこで,この『アスペルガー恋愛読本』を翻訳してみなさんにお届けします。これは,前作『大人のアスペルガーのためのソーシャルスキル・ガイド』と同じく,二人の男女の当事者による,当事者やその家族,支援者のために書かれたテキストです。
 恋愛という説明しづらいものを的確に分析し,段階に沿って,見えない部分もこと細かに解説してくれる誠実な本です。巷では,定型発達者向けに“こうすればうまくいく”的なハウツーものの恋愛ガイドを手に入れることができますが,自閉症スペクトラムの人にとっては情報が不十分だし,偏っていると思われます。テキスト通りに実践しても,失敗経験を増やすことになりかねません。この本には,きっかけ作りから,関係の深め方,将来の方向性に至るまで,誰も教えてくれそうにないことが善かれているので,不安が軽減し見通しをもって恋愛にチャレンジする勇気を与えてくれそうです。